文学フリマ事務局通信

主に文学フリマ事務局代表が書く雑記帳です。

格闘技中継の良い解説者とは?

今まで見てきた中で、私が一番良いと思う格闘技の解説者は船木誠勝である。

パンクラスで活躍したあの船木だ。

大晦日でもK-1Dynamiteの解説を務めていた。

解説者としての船木の素晴らしさを認識したのは、その名の通りマニアのあいだで語り継がれている幻の格闘技興行「LEGEND」*1の放送の時だ。

ヴァレッジ・イズマイウvs村上和成の試合での「村上選手が足を組んでいるのはマウントをとらせないためです」といった技術面の確かな解説が光っていた。

素人目には伝わらない攻防を非常にわかりやすく説明してくれていたので、この大会の船木の解説を通じて私の格闘技に対する観察眼は確実にレベルアップした。

また解説自体がガチンコの姿勢で、藤田和之vs安田忠夫という身内対決の際に、体勢を崩した安田に藤田が殴りかからずにポジションをとりにいった場面での「今、藤田選手、殴れるチャンスがあったのですが。惜しい場面でしたね」という容赦のないコメントも印象深かった。

普通なら「やはり同門だけに顔面を殴りつけることができなかったんですね」などと言うところだが、たしかにそれはアナウンサーやゲストの芸能人などに任せておけばよいのだ。


しかしもっとも記憶に残るのは「LEGEND」の直前特番でのことだ。

そこではこれから行われる試合についての煽りVTRが次々と流され、メインの小川直也vsマット・ガファリ*2をさんざん煽っていた。

番組の基本的なトーンは「世界の強豪マット・ガファリに小川危うし!」という感じで、ゲストの芸能人や司会のアナもこれから世紀の激闘が始まるような口ぶりであった。

そして最後に司会の「では解説の船木さんにお聞きします。この両者の試合、ズバリどう予想しますか?」という問いに対する船木の回答に私はのけぞった。

「はっきり言ってガファリ選手はオーバーウェイトだと思います。小川選手には打撃で秒殺してもらいたいです」

それまでの煽りVTRの流れを全否定する発言。

しかも誰もが薄々感じていながらも番組に配慮して口に出さなかったことを、船木は解説者の予想として言ってのけたのである。

そして結果もその通りになったのだから文句のつけようがない。

元一流選手ならではの経験と知識に基づく洞察。

番組制作者に媚びない姿勢で確信を持って示されるコメント。

視聴者としてこれほど信用できる解説者がいるだろうか?

大晦日のK-1Dynamiteでも少ないコメントながら良い解説ぶりだった。

谷川さえいなければもっと充実した船木のレクチャーが聞けたかと思うと残念でならない。

*1:猪木の団体UFOが主催した総合格闘技イベント。2002年8月9日開催。日本テレビが大々的にバックアップし、総合格闘技のゴールデンタイム地上波生中継を実現した。がしかし、大会の中止が囁かれるほど直前までカードが決まらず迷走。当然客入りは最悪で東京ドームの最低動員記録を作ったとか作らないとか。ガファリ(後述)のせいで「いろんな意味でレジェンドだった」と格闘ファンの語り草になっている。

*2:小川の対戦相手として当初はヒクソン・グレイシーの担ぎ出しを謳っていたのだが交渉が難航。直前まで揉めた末、小川の相手はアトランタ五輪グレコローマンレスリング銀メダリストのマット・ガファリと発表された。「あのカレリンと渡り合った男」というふれこみで筋骨隆々の写真がメディアをおどった。しかし試合当日あらわれたマットの姿はぶよぶよの太鼓腹(確か体重は170キロぐらい)。レスリングの現役を引退して衰えきっているのは誰の目にも明らかだった。個人的には所属が「サンキスト・キッズ・レスリング・クラブ」だったことも忘れられない。いざゴングが鳴ると、開始2分で小川のストレートをくらい背を向けてうずくまり、レフェリーが困惑気味にKOを宣告。試合後の会見で「あのパンチでコンタクトがずれて戦えなくなった」という驚きの敗因を明かし、21世紀最初の“とんだ一杯くわせもの”としてレジェンドをつくった。その後、プロレス団体ZERO-ONEに参戦し橋本真也小川直也と脳天気なプロレスを見せ一部のファンを楽しませてくれた。