文学フリマ事務局通信

主に文学フリマ事務局代表が書く雑記帳です。

大晦日格闘技私見

基本的に私はテレビ観戦派の格闘技ファンだ。

ここ数年で定着した大晦日の格闘技興行はその性質上「テレビで観る格闘技」という要素が強い。

それだけに出場選手も名前先行といった印象があって、ファンからすれば端から試合内容に期待できないマッチメイクも多かった(PRIDEなら安生×ハイアン、K-1なら曙×ホイスなど)。

はっきりいって番組的にはおもしろい煽りVTRを作れる選手が好都合なので、安生などがリングにあがれてしまうのだ。

その意味で危惧するのは全体的に「素人向け」の作りに過ぎる点だ。

格闘技ファンなら安生に総合格闘技での実力が皆無であることはわかりきっているし、まかり間違っても曙がホイスに勝つことなどありえないとわかっているのだが、紅白に興味がないから格闘技にチャンネルを回したという“一見さん”の視聴者は煽りVTRを見てそれなりの期待感を持って試合に臨んだかもしれない。

番組としてはそうやって視聴者をつなぎ止めればいいのかもしれないが、しかし結果としてあのようなレベルの低い試合を見せられたら格闘技に詳しくない人も呆れるのではないだろうか?


大晦日のK-1とPRIDE両方の視聴率を合わせれば、日本人の4割にもおよぶ人たちが格闘技を見ていたことになる。

ではこの人たちが今後もK-1やPRIDEを熱心に追い掛けてくれるようになるのかは甚だ疑問だ。

また、こうやって多くの人が格闘技に慣れてくることで、子供だましの煽りVTRも通用しなくなっていくだろう。

その点では、私は煽りVTRよりもマッチポンプ的な実況や解説が増えてきていることに危惧を覚える。

代表的なのはK-1の組織の代表者という立場でゲスト解説を務める谷川貞治だ。

谷川は何かというと「今のパンチ効きましたよ!」などと言って、試合が接戦で盛り上がっているように解説する。

たいして当たっていない攻撃でも「当たりましたよ!」などと誇張して好試合を演出しようとするのだから、観戦慣れしている者にとっては興醒めである。

いち解説者時代からあまりコメントの冴えない人ではあったが、K-1の運営側に回ってからの谷川の解説は聞くに堪えない

また近頃は三宅アナを中心とするフジテレビの実況陣もいただけない。

フジはK-1とPRIDE両方の放送を抱えているので、年に何十試合も実況を担当する彼らはもはやかなりの格闘通だ。

そのため、ある程度の試合の流れは読めるようになっている。

だからこそ最近はあえて試合を盛り上げようと誇張した実況をする余裕が生まれてきてしまっているのだ。

吉田×ガードナー戦で倒れた吉田にガードナーが不十分な体勢で手打ちのパンチを連打した時も、どうみてもヒットしていないのに「吉田あぶない! あぶない!」などと絶叫する。

当然、吉田はほとんどダメージを受けていないのだから容易にその体勢を逃れるのだが、そうすると「よく凌ぎました」などと言って、激しい攻防が行われているように演出するのだ。

私は盛り上げるために絶叫することが悪いとは思わない。

しかし、「嘘」の解説や実況は許し難い。

またこの「嘘」は視聴者側の格闘技に対するリテラシーが上がれば容易に見抜かれる。

それが大晦日で掴みかけた新しい格闘技ファン予備軍を逃すことに繋がり、いずれ自分たちの首を絞めることになりはしないか。

格闘技を中継するTV局は、谷川のように公平な立場ではない人間を解説席に座らせることについて、またお茶の間に試合を伝えるアナウンサーの役目について、よく考えた方がいい。