文学フリマ事務局通信

主に文学フリマ事務局代表が書く雑記帳です。

○藤田和之 vs ×ボブ・サップ

「格闘魂」の舞台裏を見て感じたのは、格闘技も優秀なコーチが勝負を決めるということと、どんな優秀なコーチであっても選手の精神を鍛えるのは難しいということ。

会場入りの時点で藤田は試合が始まるのが待ちきれないというような笑みを見せており、対するサップはかなり緊張した面持ちだった。

リングチェックの様子などを見ると、藤田はコーチのマルコ・ファスを信頼しきっており、この試合に向けたトレーニングと作戦に絶対の自信をもっているように見えた。

サップの方は外国人のコーチまでナーバスで「カメラが回ってるぞ! 手の内を見せるな」と言っていた。

いざ試合開始のゴングがなると藤田があっさりタックルを決めて倒してしまったので驚いた。

藤田を相手にするならタックルは一番警戒すべき技なのに、サップは打撃勝負をすることに頭がいっぱいになってしまったのだろうか。

その後サップの仕掛けた足関節を落ち着いて外し、回り込んだ藤田がサップの頭にサッカーボールキック

色んなところで言われているが、確かにあれは反則の後頭部への打撃。

あの一発目の時にレフェリーは試合を止めずとも口頭で注意を与えるべきだったと思う。

しかし、それでもサップを養護することはできない。

「格闘魂」の中で印象的だったのが、蹴られ、殴られるサップを見て先の外国人のコーチが思わずタラップを上がろうとして誰かに止められていたのと、それと同時にずっと黙っていたサップの打撃コーチ・伊原ジムの伊原会長が「ボブ! ネバー・ギブアップ!」と叫んだシーンだ。

伊原会長はダメージよりもサップの心が折れそうなことに危険を感じた。

いや、もともとサップの心が弱いということをわかっていたのだろう。

わかっていながらも、あの伊原会長がその弱さを叩き直すことができなかったわけだ。

伊原会長の叫びもむなしく、泣き顔でタップしたサップはもう野獣でも何でもなかった。

ボブ・サップはスポーツ選手で藤田和之は格闘家だったという感じで、もはや実力差云々の問題ではない。

あの試合を見た知人たちの反応も正直なものだった。

「なんかサップがかわいそうやった」

格闘技で夢や感動を与えるのはいい。

だが、同情をかってしまってはだめだ。

格闘技ニュースで「公開処刑」とまで書かれていたように、たしかに悲惨な試合内容ではあった。

その原因のひとつは藤田の反則攻撃だろうが、なによりサップの致命的な心の弱さがこの試合を悲惨で残酷なものに見せた。

私たちは強い者と強い者が戦うところを見たいのであって、野獣がウサギを喰い殺す様を見たいわけではない。

いくら身体が大きくても草食動物は草食動物。

もうサップに格闘技のリングに上がる資格はないし、上げてはいけない。