舞台『蜘蛛女のキス』(於・天王洲アイル)観劇
マヌエル・プイグ作、松本祐子演出。
映画でも知られる二人芝居。
政治犯として捕まっている若き革命闘志バレンティン(山口馬木也)と、未成年へのワイセツで捕まっている同性愛者モリーナ(今村ねずみ)とのやりとりを描いた獄中劇だ。
一般的には「あの今村ねずみがコンボイ・ショウを休んで挑んだ!」みたいな感じで話題になっている。
幕が下りた時、私の後ろに座っていたコンボイの追っかけとおぼしき中年女性の一群が「ねずみさん、かわいかったわねー!」と騒いでいたが、たしかに今村ねずみの同性愛者のキャラクターは秀逸。
女性も納得というか、「こんな人となら友達になりたい」と思う演技だった。
一方で私は、革命の情熱と相反する恋愛感情を抱えて悩むバレンティンに感情移入して舞台を観た。
インテリ風に革命理論を弁ずるかと思えばいきなり癇癪を起こしてしまう不安定で繊細な姿は、たんなる革命思想かぶれではなく、ある意味で〈若者〉という存在の普遍的な像を描いている。
山口馬木也はまさに身体全体で、バレンティンが象徴する〈若者〉というものを体現していた。
おそらく上手さ巧みさでは今村ねずみに好印象を持つ人が多いだろうが、私は芝居の熱さ鋭さでこれは山口馬木也の舞台であったという印象を持つ。
休憩を挟む三時間近い劇だが、緩急も見事で疲れることなく最初から最後まで集中できた。